『羊と鋼の森』は、宮下奈都による静謐で美しい成長小説です。本作は2016年に本屋大賞を受賞し、2018年には映画化もされました。調律師という職業をテーマに、音楽の世界と人の成長が繊細に描かれています。

羊と鋼の森 (文春文庫) [ 宮下 奈都 ]
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あらすじ
北海道の田舎町で育った青年・外村直樹は、高校時代にピアノの調律に立ち会ったことをきっかけに、調律師を志します。専門学校を卒業し、地元の楽器店に就職した彼は、板鳥宗一郎というベテラン調律師や、先輩の柳、同僚の秋野らと共に経験を積んでいきます。
ある日、双子のピアニスト姉妹である**佐倉和音(かずね)と佐倉由仁(ゆに)**に出会います。同じピアノを弾いても二人の音色が全く異なることに気づいた外村は、調律の奥深さを改めて知ることになります。
彼は悩みながらも、調律を通じて「音」と「人」に向き合い続け、自らの成長を感じていきます。

物語の進行はゆったりとしていて、深い余韻みたいなものを感じました。
登場人物の魅力
外村直樹(主人公)
・田舎育ちで静かだが、音に対して繊細な感性を持つ。 ・調律師としての成長を通じて、自分自身の在り方を見つめ直していく。
板鳥宗一郎(師匠)
・外村が調律師を目指すきっかけとなった調律師。 ・温厚で深みのある人物で、外村にとって大きな存在。
柳(先輩調律師)
・外村の先輩で、気さくな性格。 ・仕事の姿勢や調律の奥深さを外村に教える。
佐倉和音・由仁(双子のピアニスト)
・和音は繊細で優しい音、由仁は力強く芯のある音を奏でる。 ・同じピアノでも奏者によって音が変わることを外村に気づかせる。

登場人物それぞれが外村の成長に関わり、個々のキャラクターが重要な要素となっています。
『羊と鋼の森』の魅力
① 音楽と調律の世界を繊細に描く
本作の最大の魅力は、調律師という職業の奥深さを丁寧に描いている点です。調律は単なる技術ではなく、演奏者ごとの個性を引き出す仕事であることが、静かで美しい文章で表現されています。

「調律」という職業の魅力を初めてしりました。
② 「森の匂い」を感じるような比喩表現
外村が初めて調律の音を聞いたとき、「森の匂いがした」と感じた場面が象徴的です。これは、音楽がもたらす情景や感覚を豊かに描写するための美しい比喩であり、読者に深い余韻を与えます。
③ 成長物語としての魅力
外村は才能に恵まれたわけではなく、試行錯誤しながら技術と感性を磨いていきます。その姿に共感する読者が多く、静かながらも確かな成長が描かれる点が評価されています。

派手な展開はありませんが、独特の表現が、作品全体の詩的な雰囲気を際立たせています。
結末と読後感
本作の結末は、劇的なクライマックスがあるわけではなく、静かに幕を閉じます。外村は「自分なりの調律」を探し続ける決意を固め、物語は余韻を残して終わります。
読後には、音楽や調律というテーマを超えて、「仕事とは何か」「成長とは何か」を改めて考えさせられます。
まとめ
『羊と鋼の森』は、調律師という職業を通じて、「音」と「人」と向き合う静かで美しい成長物語です。派手な展開はありませんが、その分、繊細な表現や登場人物の心の動きが丁寧に描かれています。
音楽が好きな人はもちろん、何かを極めようと努力するすべての人に響く作品です。ぜひ一度、外村の成長と調律の世界を味わってみてください!

「音を感じる小説」でした。
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