はじめに:なぜ「話し方」が注目されるのか?
ここ数年、「コミュニケーションスキル」がビジネス書市場で一つのトレンドになっています。
プレゼン、雑談、傾聴、心理学といったテーマが並ぶ中で、2020年以降ずっと売れ続けている書籍の一つが、永松茂久著『人は話し方が9割』です。
「話し方」に関する書籍は数多くありますが、なぜこの本だけがこれほどまでに長期的に支持されているのか。
本記事では、まだ読んだことがない方に向けて、
- 書かれている内容の要点
- どんな人に向いているか
- 他の話し方本との違い
- 購入前に知っておきたい注意点
といった観点からレビューしていきます。
著者について:永松茂久氏とはどんな人か
『人は話し方が9割』の著者・永松茂久氏は、大分県出身の実業家・講演家・作家です。
居酒屋経営からスタートし、講演や執筆活動を通じて人材育成やリーダーシップに関する発信を続けてきました。
彼の著書はどれも、ビジネス書でありながら“人間臭さ”があるのが特徴です。
机上のテクニックというよりも「人とどう向き合うか」という姿勢に重きを置いています。
本の構成と主な内容
全体構成
本書は以下のように構成されています。
- なぜ、話し方がすべてを決めるのか
- 「聞き方」で好感度が決まる
- 「感じのいい人」は話し方でつくられる
- 相手の心をつかむ話し方
- 話し方以前に大切なこと
それぞれの章に細かく「◯◯はやめる」「◯◯を意識する」といったサブタイトルが付けられており、見出しだけ読んでもある程度の内容が伝わるようになっています。
内容と要点解説
なぜ、話し方がすべてを決めるのか
本章ではまず、**「話し方が人間関係の質を決める」**という本書のメインテーマが提示されます。
著者は「話すこと」に苦手意識を持つ人ほど、“うまく話さなければ”という思いにとらわれがちだと述べます。しかし実際は、話す内容よりも“どう話すか”“どんな姿勢で接するか”のほうが大切であると説きます。
キーワードとなるのは「安心感」と「共感」。
たとえば相手にとって居心地が良い空気を作れれば、会話の中身が完璧でなくても信頼関係は築ける、という点が繰り返し語られます。
ポイント
- 会話で大事なのは「何を言うか」ではなく「どんな気持ちで言うか」
- 初対面でも「この人は味方だ」と思ってもらえる雰囲気づくりが重要
- 人は“話し方”を通じて、相手の人間性を判断している
「聞き方」で好感度が決まる
第2章では、「聞く姿勢」の重要性が取り上げられます。
多くの人が「話し上手になりたい」と思っていますが、実は**“聞き上手”になるほうが、相手の心に残る**と著者は述べています。
特に紹介されるのが、「うなずく」「相づち」「表情のリアクション」などの基本的な“聞く技術”。
こうした行動は相手に「話してよかった」と思わせる効果があり、結果的に会話の満足度が上がります。
また、相手が話しやすい空気をつくるには、「相手を否定しない」「話の腰を折らない」「結論を急がない」ことが鍵だとされています。
ポイント
- 会話において“主役”は相手である
- 聞き方を変えるだけで信頼関係が深まる
- 口を挟まずに“黙って聴く力”が求められる
「感じのいい人」は話し方でつくられる
この章では、「話し方で印象が決まる」という内容が掘り下げられます。
感じのいい人に共通するのは、**「相手を受け入れる姿勢」「自然体」「ポジティブな言葉選び」**だと著者は指摘します。
たとえば、何かを伝えるときも「〜しないでください」より「〜していただけると助かります」といった柔らかい表現を選ぶことが印象を左右する要因になるといいます。
また、「ありがとう」「助かりました」「うれしい」といった感謝や喜びの言葉を口にすることで、相手との距離が縮まるというアドバイスも含まれます。
ポイント
- 印象は話す内容より「態度と言葉遣い」で決まる
- 丁寧語よりも“前向きな言葉”の方が印象をよくする
- 感情表現(特に喜びや共感)はコミュニケーションの潤滑油
相手の心をつかむ話し方
第4章は、「相手の心を動かすための会話術」がテーマです。
といっても、ここで紹介されるのはプレゼンテクニックではありません。
重視されるのは、“相手が気持ちよくなる会話の流れ”を意識することです。
たとえば、相手の話を受けてから自分の話をする「受け答えの順序」、
「あなたに共感しています」という意思表示、
そして「相手の名前を呼ぶ」といった基本動作が、心の距離を縮める鍵になります。
また、「沈黙を恐れない」「無理にオチをつけない」といった、“自然体の会話”のすすめも印象的です。
ポイント
- 相手の話に「共感+自分のエピソード」で返すと自然な流れになる
- 相手の名前を会話に入れると、親密度が高まる
- 沈黙を「悪」と捉えず、間も会話の一部とする視点が大切
話し方以前に大切なこと
最終章では、“話し方”以前に問われる人としてのあり方に焦点が移ります。
たとえば、誰かの悪口を言わない、見返りを求めずに接する、人にやさしくする――
こうした“人間性”が話し方にもにじみ出ると著者は述べています。
また、話す力を磨く前に、「自分は価値のある存在だ」という自己肯定感を持つことの大切さも語られます。
自信のない人ほど、自分の話に説得力が出ず、相手に与える印象も弱くなる。
だからこそ、まず「自分を受け入れる」ことから始めようというメッセージで締めくくられます。
ポイント
- 話し方は“人間性の表現”でもある
- 自己肯定感がある人は自然と話し方にも余裕が出る
- 相手を思いやる気持ちが、結果的に良い会話を生む
要点まとめ
以下のような要素が、繰り返し強調されています。
- 話すことより聞くことが大事
- 否定しないリアクションが信頼を生む
- 「共感」と「感情の受け止め」が人間関係の基本
- 話し方はテクニックよりも「心のあり方」で決まる
- 緊張してもいい。素直な言葉でいい
あくまで“技術”ではなく“マインド”重視の内容です。
図解やスキルチェックリストはほぼ無く、文章ベースでじっくりと読ませる構成です。
本書の特徴:他の「話し方本」との違い
話し方に関する本は数多く出版されていますが、本書の独自性は以下の点にあります。
1. 「雑談力」や「スピーチ術」とは違う
本書はいわゆる“スピーチの型”や“会話ネタの選び方”など、実践的なノウハウに特化した本ではありません。
その代わり、「どんな心持ちで人と接するか」に重点を置いています。
そのため、すぐに仕事で成果を出したい営業職やプレゼンター向けというよりも、日常的な会話に苦手意識がある人向けです。
2. 「人に好かれる」が主眼
タイトルにもあるとおり、本書のテーマは“話すことで人間関係を良くする”こと。
人に信頼され、安心感を与えられるようなコミュニケーションを目指しています。
一方で、「論理的に伝える」「説得する」といった場面では物足りないと感じる読者もいるかもしれません。
どんな人におすすめか?
以下のような読者に向いています。
- 会話が続かないことに悩んでいる人
- 「何を話せばいいかわからない」と感じる人
- 初対面の場が苦手な人
- 自己肯定感が低く、話すことに自信が持てない人
- 接客業や人と接する仕事に就いている人
逆に、すでに営業やプレゼンで“伝える技術”を磨いてきた人には、既知の内容に感じられる可能性があります。
良い点と気になる点(メリット・デメリット)
良い点(メリット)
- わかりやすい言葉で書かれており、読書が苦手でも読みやすい
- 経験談ベースなので、内容が具体的
- 「話し方は才能ではなく習慣」と明言しており、再現性が高い
- 1日10分ずつでも読み進めやすい構成
気になる点(デメリット)
- あくまで心構え中心のため、テクニックや実践ノウハウは少なめ
- 内容がやや抽象的で、即効性に欠けると感じる読者もいる
- すでに他の自己啓発本を読んでいる人には「目新しさ」に欠ける
読んだ後に変わるかもしれないこと
本書を読んで得られる変化の例を、客観的に整理すると以下のとおりです。
Before(読む前) | After(読んだ後) |
---|---|
「話しかけるのが怖い」 | 「まずは相手の話を聞こう」と思える |
「話が続かない…」 | 「共感」と「質問」が基本だと理解 |
「沈黙が怖い」 | 無理に埋めようとしなくなる |
「うまく話せない自分が嫌」 | 完璧な話し方でなくてもいいと気づく |
よくある疑問
Q. 本書は中高生でも読めますか?
→はい。文章は平易で難解な用語やビジネス用語も少ないため、中高生でも十分に読めます。対人関係に悩む10代にもおすすめです。
Q. オーディオブックでも理解できますか?
→可能です。本書は会話ベースの構成で、声で聞いても理解しやすいです。むしろ“話し方”というテーマと相性が良いとも言えます。
Q. 続編や関連本はありますか?
→続編という形ではありませんが、同著者による『心の持ち方が9割』や『言葉にできるは武器になる』など、近いテーマの本があります。
総評:読んで損はないが「何を求めるか」による
『人は話し方が9割』は、
**「会話に自信がない」「人付き合いにストレスを感じている」**といった読者にとって、大きなヒントを与えてくれる書籍です。
反対に、「ロジカルに話したい」「議論に強くなりたい」「交渉力を高めたい」といった目的には適していません。
- ✅ 心理的ハードルを下げたい
- ✅ 人との距離感を縮めたい
- ✅ 話すことの苦手意識をなくしたい
そういった方には、まず一読してみる価値があります。
読後、「話し方」そのものよりも「人との接し方」への意識が変わるかもしれません。
おわりに:話す力より“向き合う力”
「人は話し方が9割」――この言葉の意味は、「言葉の巧さがすべて」ということではありません。
むしろ、「どういう気持ちで人と向き合うか」が会話の質を決める、という本質的なメッセージが込められています。
この本は、テクニックに走るよりも、“人としてどう在るか”を問い直したいときに読む価値のある一冊です。
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